ごあいさつ
研究指導実績
過去の研究指導例:支援した研究論文の概要
(ほんの一部ですが,苦労して仕上げた看護師さんたちの研究の成果です)
「下着の素材の違いが硬性コルセット内の温度・湿度・下着の水分量・および不快感に及ぼす影響」(学会発表・雑誌投稿)
24時間の硬性コルセット装着を余儀なくされる脊椎カリエス患者は,コルセット内の発汗や湿度による不快感や皮膚障害の危険性がある。
この危険性を減らすには綿よりもドライ素材の下着の着用が適しているのではないかという疑問から,綿素材とドライ素材の下着着用下でのコルセット内環境と不快感を比較した。
被験者は硬性コルセットや下着の素材についての知識のない健常者(女性24歳)1名である。
生理周期や体調による体温変動を避けるため,実験時期は被験者の卵胞期とし,実験前夜は8時間程度の十分な睡眠を確保させた。
異なる日程で同一の温度・湿度環境を設定し,被験者には事前に設定された運動・食事などのスケジュールをこなしてもらい,下着に綿素材とドライ素材を着用した場合とでコルセット内の温度・湿度・下着の水分量,不快感が異なるのかを測定した。
その結果,吸水性の高いドライ素材は綿素材に比べ被験者の汗をよく吸い取り下着の水分量は高値を示した。そのため被験者にとって不快感は少なかったが,放湿性が高いため,一旦100%に達した湿度が下がることがなかった。しかし被験者は高湿度・高温による不快感をほとんど訴えていなかった。
ドライ素材は汗の吸収や,汗による不快感低減について綿素材に比べ効果があることが判明した。
「ICU看護師の手洗いの実態と自己評価の比較」(院内発表)
ICU看護師の手洗いの自己評価の内容と実態にはどのくらいずれがあるのかを明らかにする目的で,調査を行った。
対象者はY病院ICUの看護スタッフ20名である。対象者に手洗いの基本動作10動作について,どの程度(何%くらい)普段行えているか回答を求めた。
また研究者は対象者に研究の目的を告げずに,対象者の手洗い場面を非参加観察し(場面見本法),手洗いの基本動作10項目が実際に行えているか,「行えている・行えていない」の2段階で評定した。観察した手洗い場面は各被験者5場面とした。
観察結果から,各人の基本動作の実施率を算出した。その結果,手洗いの基本動作のうち「まんべんなく石鹸を擦りつける」や「規定時間流水で流す」などは実施率が20%を下回っていた。一方,自己評価はすべての項目で50%以上であり全体的に高かった。
「採血時の手袋装着に影響する要因」(学会発表・雑誌投稿)
採血時の手袋装着の阻害要因を明らかにする目的で,調査を行った。対象はM病院看護スタッフ250人である。
対象者に手袋装着に関するアンケートを配布し,留め置き法で回収した。調査用紙の内容は,対象者の基礎情報の他,採血時の手袋の装着状況の他,スタンダードプリコーションで推奨される手袋装着場面8項目での装着状況,関連要因として想定した「手袋への煩わしさの感覚」5項目,「血液感染への恐怖」5項目,「感染の知識を問う質問」10項目,「周囲からの感染防止への注意喚起」5項目についてである。
調査の結果,手袋装着率は25%と低く,看護師経験15年以上の者の装着率が極端に低かった。これは排尿介助や排便介助など他の場面での装着率が80%以上と高率なのに対し対照的であった。検定の結果,手袋装着の阻害要因として「手袋の煩わしさ」が明らかにされたが,「血液感染への恐怖」,「感染の知識」「感染防止への注意喚起」との関連は見いだせなかった。
以上のことから,手袋装着を促進させるには,知識を与え感染への恐怖心をあおるのは意義が薄く,むしろ手袋装着の経験の薄い卒後15年以上を対象にした,手袋を装着しての実践的な採血訓練によって「煩わしさ」を克服することが有効であると示唆された。
「脳血管障害患者の転倒要因の検討」(学会発表)
脳血管障害患者50名を対象に,転倒が発生しやすい状況と発生要因を調査した。
転倒要因は,脳血管障害患者の看護に携わる経験の豊富な看護師5名のブレインストーミングとカテゴリ化によって抽出した。また転倒要因のチェックリストは,異なる観察者によっても判定がずれないよう,観察結果の一致率が80%以上になるよう調節した。患者の転倒要因の観察は,入院後1週間の段階でプライマリナースが行った。
その結果,転倒の約3割が入院から1週間以内に起こり,約8割が午後から夕方にかけて発生することが明らかになった。場所としてはベッドサイドが最も多く、ベッドから車椅子・ポータブルトイレへ単独移動の際に転倒が起こりやすかった。
数量化Ⅱ類による分析の結果,「介助が必要なのに単独歩行」「疼痛」「装具装着」「下肢知覚障害」の4要因が,全転倒の30%を予測しうることが判明した。
「術後せん妄と術前の睡眠の関連性」(現在データ収集中)
術前の睡眠の質が不良な者は,術後に「睡眠・覚醒リズム」を崩しやすく,せん妄を発症しやすくなるのではないかという疑問を明らかにするために調査研究を計画した。
対象者は全身麻酔にて腰椎・頚椎の手術を行う患者のうち,調査への承諾を得られた患者である(予定人数50名程度)。
脳血管障害や認知症の既往を有する患者,呼吸・代謝障害など,せん妄の発症に直接影響する疾患を有する患者は除外した。
データは患者の基礎情報のほか,自覚的睡眠感を「OSA睡眠調査」によって入院から術前日まで調査した。せん妄については「せん妄評価尺度」を術後4日めまで8時間ごとに評定した。
今後はデータが集まり次第,せん妄発症群と非発症群とで睡眠の質(自覚的睡眠感)に差があるのかを比較し,必要な看護について検討していく予定である。